基礎編
第1章 自然治癒力が毛髪を蘇えさせる

(1)自然治癒力とは

 広大な草原やジャングルに生息する動物達は、病気やケガをしても人間やペットの動物のように病院で治療を受けたり、化学薬品の力を借りてその症状を押さえるということはできません。猿のように、脳の発達している動物は温泉の湯に浸かり、病気やケガを治すということは古くから知られていますがこれは例外で、ほとんどの動物達はケガをすると傷口をなめ、唾液の殺菌力を利用し傷がふさがるのを待ち、消化不良を起こすと消化を助ける雑草を食べ、病気や大ケガをすると安らぐ場所を見つけ、エネルギーの消耗を減らし、体液が病変部や損傷部から分散しないよう、身を横たえじっと動かず回復を待ちます。
 かつては人間も同じようにして病気やケガを回復させ、生きながらえてきたのですが、医学の発達により様々な治療法が発見され、大きな恩恵を受けられるようになりました。
しかし、一方においては化学薬品による過剰な治療によって、自力で病気やケガを治そうとする機能が低下していることも事実です。
 秋は抜け毛の季節と言われるように、異常な脱毛が起こることがあります。これは冬に備え、毛母細胞の入れ替わりがある為に起こる一時的なものですから、本来は冬になると抜け毛は自然に止まり、春には気にならないまでに回復し、「若禿」に至らずに済むものなのです。
 今はどうでしょうか、夏には回復し成長が見られる筈の毛髪が、そのまま脱毛が止まらず、わずかの間に「薄毛」「若禿」へと進行する例が多く見られます。
 円形脱毛や全頭脱毛もかつては、「気にせず放っておけば治る」という時代がありました。
 今でも放っておけば治る場合もありますが、大半の人は放っておいては治りません。
 散々育毛剤を使っても治らず、様々な育毛システムを試しても治らず、あちこちの病院を尋ね、行き着くところはステロイド剤というパターンになるのですが、この結果、自ら治す機能はほとんど消滅してしまう事が多く、完全な回復は絶望的になります。
 なぜ、病気や脱毛症が自分の力で治す事ができなくなってしまったのでしょうか。
その原因は「自然治癒力」の低下、消失にあるのです。
 では、「自然治癒力」とはどのようなものなのでしょうか、
 「自然治癒力」を極く簡単に説明すれば、「病気や脱毛症になっても、病院で治療を受けたり、化学薬品の力を借りなくとも、いつの間にか自分の力で治してしまう能力」を言うのですが、この不思議な能力は何によって生まれ、どこにあるのかという事になると、未だ明確な解説はされてなく、特に発毛、育毛には無関係のように思われてきました。
 ここで改めて、発毛の立場から「自然治癒力」の意義を解き、「自然治癒力発毛理論」において定義づけしたのを解り易く述べます。
 天地空海、天命という言葉があります。天は宇宙、地は地球、空は大気、空間、海は海(うみ)、そして天命は天から授かった命、即ち宇宙に支配される生命を表わします。
 これ等は総て、その誕生から営みまで、誰が作り上げたものでもなく、成すがままに生まれ、個々が調和しながら存在しています。この状態を自然といい、定義づけると次のようになります。
 「自然」とは人為的な力を加えない、人間を含めた地球、宇宙、空間に存在するあらゆるものの生成、及び営みをいい、ここで言う「人為的な力」とは人間が故意に行なう科学的、機械的、その他の手段で人間を含めたあらゆるものの存在に対して影響を及ぼす力を言い、更に「治癒力」とは病気、ケガ、その他の原因で起こる心身の変異、損傷を治す力を言います。
 ( 1の1 図)に示すように、生物が生まれながらにして授かってきた生命の根元となる力を生命力と言い、その生命力を保とうとする働きを恒常性維持機能(ホメオシタシス)といい、これらの持つ力と機能が協調して生まれる治癒能力を「自己治癒力」といいます。

 更に生物が誕生し、進化して今に至るまでに受け続けてきた「天地空海」に値する大自然の力、即ち気候、風土、空気、水、食、引力、波動、宇宙光線等による「生命維持環境効力」と「自己治癒力」との相互力と、調和から生まれてくる治癒能力を「自然治癒力」といいます。(1の2図)
 我々は、真夏の暑い最中外出したり、エアコンの効かない部屋にいると大量の汗が出てきますが、これは汗をかく事によって、汗が蒸発する時に皮膚の気化熱を奪い、体温が上昇するのを防ぎます。
 真冬の寒い時に外にいると、鳥肌が立ち、しばらくすると体が硬直して、ガタガタと震え出す事があります。これは、毛穴にある立毛筋を引き締める事によって毛穴を引き締め、わずかでも気化熱が奪われるのを防ぎ、更に体の筋肉を引き締め、震えることによって熱を発生させ、体温が下がるのを防ぐのです。
 恒常性維持機能とは、このように人体の機能を正常に保とうとする働きを言うのですが、実際に体で感じ取れる働きばかりではなく、体内では細胞単位、分子単位で恒常性維持機能は働いています。
 この機能を左右するのが生命力で、生命力の強靭な人は恒常性維持機能も正常に働き、免疫力も活発になります。又、恒常性維持機能が正常に働いていけば、弱っている生命力が復活し、元来生まれ持っている生命力を更に旺盛にする事もできます。
 この2つの働きはいわば、車の両輪のようなもので、両立した働きが協調し合い、自己治癒力は活性に導かれるのです。これ等の機能は、細胞の働きが根底を成し、細胞の恒常性、回帰性を保つのは汚れのない血液の正常な循環によって成り立ち、心の在り方によって大きく左右され、生命維持環境効力によって支えられているのです。


(2)自己治癒力は大自然によって支えられる

 地球は外環を気体で包まれた、無数の物質の集合体で、エネルギーを持つひとつの星
として宇宙に存在し、宇宙の摂理に従い、地球としての生命を営み、地球に存在する
人間を始めとするあらゆる生物は、宇宙の摂理によって創られる自然の法則に支えら
れ、生命活動を営んでいます。
 太陽は、水素がヘリウムに核融合する時にできる光エネルギーによる電磁波を地球に供給し、地球上の植物は光化学合成によってブドウ糖、デンプン等の糖質を作り、人間や動物に供給します。
 人間は水をのみ、呼吸により酸素を取り入れ、植物や動物等から得た栄養を代謝して、生命活動のエネルギーを作り、毛髪を生成します。
 活動エネルギーを消耗して発生する二酸化炭素を空気中に戻し、更に食物や飲み物を代謝してできるカスや老廃物を、大便や小便で排泄し、肥料として土中に戻し、これ等を吸収した植物は再び光化学合成によって、人間に糖質を還元してくれるのです。
 これは人間と植物の間における生命活動のエネルギー循環の一例を示したものですが、
 このようにして太陽から発生する諸々のエネルギーが、地球上に生息する生物の生命活動の根源となり、植物、動物、魚介類、微生物等の生物は「酸素」「水」「栄養」「気候」「風土」「温度」「湿度」等、人間が生きていく為の生命維持環境を作り、人間は他の生物が生命活動を維持する為の還元を行ない、「万物一体」の現象を営みます。
 人類が有史以来、「万物一体」の摂理に従い、生命活動を維持する為に受けてきた大自然の諸々の現象による恩恵を、「生命維持環境効力」又は「生命維持環境能力」といい、人間が本来持っている「自己治癒力」との相互力と調和から、「自然治癒力」は生まれます。
 昔から、自然に囲まれた山林地帯、農村地帯には病人や禿が少ないと言われ、現代においても山間部へ釣りやキャンプに行くとこの現象が見られます。
 植物は人間が生きる為の「水」と「酸素」の浄化をし、供給すると共に時には「栄養」となり時には「天然の薬」となり、更に脳・神経を鎮め、安定させる環境を創り出してくれる大切な「生命維持環境効力」のひとつとなっています。
 「自然治癒力」は、大自然の恵みから受ける力が、その機能を左右するものですから、
大自然に感謝し、大自然の生命の営みを全人類が保護し、維持してやらなければ、その相互力と調和は消滅されていきます。


(3)生体リズムを創り出すエネルギー

 地球が誕生してから46億年を経過していると言われていますが、この時から地球には太陽からの放射する赤外線や紫外線、可視光線等の電磁波が到達し、太陽と月と地球の引力関係から生じる重力や潮汐、地球の核から生ずる地熱や地球の自転から生じる磁場、更にこれ等の歪みから発生する「ゆらぎ」などのエネルギーが生まれ、あらゆる生命体の生命活動の環境が作られてきました。
 この環境に、生命活動の条件が適合した微生物が生まれ、地球の核の変化や大気の変化によって原生植物や原生動物が生まれ、やがて進化、退化を繰り返しながら、人類が誕生したのです。
 人類も猿の仲間から類人猿が生まれ、全身毛に覆われた原人が生まれ、やがて、生活環境の変化から有毛部だけを残した人になり、今に至っているのですが、この間、約200万年もの歳月が経過していると言われています。
 この間にも人間は、太陽や月、地球の持つエネルギーが創り上げた環境に順応しながら、生体リズムが創られ、生理機能、代謝機能が支えられてきたのです。
 これらを私は、「環境波動エネルギー」と称して、自然治癒力発毛理論では、生命維持環境効力のひとつとして据えています。
 人体は、電子の増減によって体質が酸性になったり、アルカリ性になったり、又電子の加速によって生理機能が向上し、電子の運動の低下で生理機能が低迷します。
 自然界から与えられる環境波動エネルギーによって電界が発生し、そのエネルギーで自由電子に加速がつき、生体には電流が流れ、当然磁場も発生しますが、人体にはこのエネルギーの影響によって心電や筋電、神経電流と言った電流が流れ、整然としたリズムを生み、生理機能を維持しています。脳磁界や共鳴磁場、更には女性の生理の周期、上皮細胞の入れ変わりの周期、毛周期などにも一定のリズムがあるのは、環境波動エネルギーが創り上げたものです。
 従って、「人は天(宇宙)に支配され...」という語源はこの環境波動エネルギーを集
約したものとして解釈できるのではないでしょうか。又、体内の電子や磁場の働きによって、人体から固有の赤外線(8〜10μ)や、可視光線の電磁波、低周波の周期を持つ磁気、低周波(6〜12Hz)の波動、静電気、イオン流等が発生し、人体も又その波動を他の植物や生物に与えています。
 このような人間と生命維持環境とのエネルギー環境を、私は「波動エネルギーの循環」と位置付けし、自然界の波動エネルギーを破壊したり変異させてしまう、人為的な波動エネルギーを原則として応用しないという事を前提に、「発毛ドック」は実施をしています。


(4)毛髪は生命力によって成長し、恒常性維持機能によって成長が左右される

 怒りや憾み、憎しみ、苦しみ、悩み事や心配事等、精神的なストレスが原因で、脳を酷使し続けると、脳の血量が不足する為、総頸動脈の分岐点から内頸動脈へ血量を増し、外頸動脈への血量を減らし、頭皮への血量が著しく減少します。(1の3図)

 これは、脳の働きが低下するのを食い止め、正常に保とうとする恒常性維持機能の働きによるものですが、このような時には生体内も異常をきたし、交感神経と副交感神経が逆作動を起こし、活性酸素の発生や頭皮の筋肉の硬直、毛細血管の収縮等が発生し、毛乳頭機能が著しく低下する為に毛根が萎縮し、根元付近から切れたり細くなって、抜け毛や薄毛、円形脱毛や全頭脱毛の原因となります。
 これらを一般的には神経性脱毛症と称しますが、心身の機能を中枢する脳の働きを常に保つ事を優先とする為に起きた結果に過ぎないのです。
 出産した後や大病を患ったりすると爪が変形したり、大量に脱毛する事がありますが、これも又、「恒常性維持機能」が生命維持を最優先とする為に起こる事なのです。
 本来「恒常性維持機能」は、全身の生理機能を維持する為に体液(血液、組織液、リンパ液等)を内臓、骨、筋肉、皮膚等全ての組織に平等に供給し、体の健康、心の健康、毛髪の健康が保たれるのですが、体調の変化、未病、発病、ケガ等で組織に異常が起こると、早く元の機能を取り戻そうと体液を集中的に送り込み、ホルモンの分泌を調節して回復を図ります。この事は、膝の関節に異常があると水が溜まったり、肝臓ガンの末期で腹水が溜まったりする事で、皆さんもご存知かと思います。
 しかし、爪や毛髪は付属器官といわれる組織で、有っても無くても直接、生命には関わりが無い為、これ等の組織への体液の供給を減らされ、生命、生体維持に供給されているのです。生命維持の為には「たかが毛」かも知れません。しかし、精神衛生面から言えば「されど毛」なのです。
 全身の生理機能を正常にし、体液を毛乳頭組織にも平等に供給し、毛髪の生成を正常に保つのも、生体機能を維持する為に脱毛を誘発するのも、「恒常性維持機能」の働きによるものです。従って、これ等、人間が本能的に持っている機能を復活し、正常に導く事によって「体の健康」「心の健康」を取り戻し、生命維持環境の悪化に対する自己防御をして根本から発毛、育毛を促すのが「自然治癒力発毛法」の原点となります。


(5)正常な体温が健康な毛髪を生成させる

温泉に自然治癒力を復活させる可能性がある、ということに確信を得て、昭和38年、下半身を温湯につけて入浴する「腰の湯」を応用した「入浴発毛法」を開発し、同時に頭皮を蒸気で温める「頭皮浴」を開発し、「発毛ドック」に導入していましたが、実験の結果、円形脱毛や全頭脱毛には手先を温湯につける「手先の湯」を加えることにより、顕著な結果が得られるということを発見し、昭和40年から実施してきました。
しかし、入浴発毛法においては、1日に数回の入浴は困難である、という顧客の要望により、昭和48年より様々な実験を繰り返し、温湯に足をつける「温足浴法」が最も入浴法に近い効果が表れる、ということを発見し、導入、現在に至っています。
これ等の全てを私が開発したという意味ではなく、開発したと言えるのは「頭皮浴」のみで、他の方法は古来からある民間療法で、「部分浴」と言いますが、これ等を発毛に応用したのは、私が世界で最初になるかと思われます。
「冷え」や「冷え性」を捉らえ、漢方では体内に「寒の邪気」が宿ったとして、「寒邪」と言う病気のひとつにあげ、古くから「食」や「気功」「導引」を取り入れ、対策をしています。
今から10年程前に、NHK総合テレビで中村メイコ氏の担当により、「冷え」や「冷え性」をどのようにしたら解決できるかと言う番組が放映されましたが、その中で医師や栄養士などの各専門分野の方達が、「栄養」で対策する法、「衣類」で対策する法、「温足浴」で対策する法を紹介して以来、あらゆる民放テレビ局もこぞって「入浴」と「部分浴」を取り上げ放映し、「健康」(主婦の友社)などの一般誌でも度々、特集を掲載しています。
日本の医学界でも、病気とはされてないものの、「冷え」はあらゆる病気や脱毛症等を引き起こす原因になっているという事が、一部の医師や有識者、研究家によって解明されていますが、例に取れば「万病を治す冷え取り健康法」(農文協)をお書きになった医師、進藤義晴氏は、この本の中でこれ等が改善されれば、多くの病気が治り、禿や白髪も治ると述べられています。
昭和60年から平成10年12月31日までに「発毛ドック」に来店して頂いたお客様の中からご協力戴いてきた、体温調査の集計が終了したので、ここに報告いたします。
調査対象5歳から39歳まで、対象人数730名を第1グループとして調査した結果、
@ 基礎体温が35℃台、もしくはそれ以下の人達は全体の95%
A 生活体温も低い(いわゆる低体温体質)36℃以下の人達は上記の約70%
B 更に上記以上の40歳から70歳までの人達100名第2グループを対象として調査した結果では、
イ. 基礎体温が35℃台、もしくはそれ以下の人達は全体の70%
ロ. 生活体温も低く、36℃以下の人達はイ.の約50%という結果になりました。
 この結果を簡単に表せば、若い人達の脱毛症は「冷え」「低体温」が主な要因であると断言しても良いのではないでしょうか。


(6)毛髪は正常な血液の循環によって生かされる

 人間の体は60〜100兆個に及ぶ細胞の営む再生増殖によって支えられています。
 再生増殖を行なう為には、栄養と酸素と水と水が運ぶ体温を必要としますが、これらは血液によって供給され、再生活動によって生じた二酸化炭素、老廃物、不用毒素を血液に戻し、新陳代謝を行ないます。
 新陳代謝は、体内で作られる膠質性の蛋白質からなる「酵素」と、蛋白質と水溶性ビタミンからなる「補酵素」の持つ触媒作用により、それぞれの異なる栄養素が、異なる「酵素」及び「補酵素」の働きで生体化学反応を起こし、分解、合成を繰り返して行なわれますが、「酵素」及び「補酵素」は生理機能や毛髪の生成を左右する、言い換えれば自然治癒力を左右する大切な物質のひとつです。
 人体には、延長すると約96万kmに及ぶ血管が、全身の末端まで張り巡らされ、爪や毛髪の毛幹部等の角質化した部分を除き、細胞のひとつひとつが毛細血管と直結され、血液を循環し、細胞の新陳代謝を司っています。しかも、その血管の大半は毛細血管で組織され、更に血管の血管壁にも毛細血管が組織され、血管壁への血液を供給し、血管細胞の新陳代謝を促しています。

 足の裏や指先、毛根部にある毛乳頭など末梢部にある細胞は、末梢組織細胞で構成され、これらの細胞は(1の4図)に示すように、細動脈→毛細血管→細胞→毛細血管→細静脈という血液循環を持つ末梢血管組織と直結され、新陳代謝を行なっています。
 頭皮は、他の組織や器官に比べると血液の循環は悪く、血液量も減少し、最も生理機能が低下しやすく、皮膚温度も低下する部分です。

 頭皮は心臓より高い位置にあり、常に引力に逆らうように動脈血が流れています。(1の5図)更に、毛髪が密集する天頂部に近づくにつれて血管が細くなり、毛乳頭は毛細血管で結ばれています。しかも、浅頭部より上部になると立毛筋以外の筋組織はありません。顔面や手足のように、随意筋が組織されていれば、動かす事によって必然的に血液の循環が促され、皮膚温度が低下しても元に戻す、即ち回帰性が保たれているのですが、頭皮は故意にマッサージやその他の方法で動かさない限り、自分の意志だけでは動きません。加えて前記した元来備えている悪条件と重なり、血液の循環は増々細流となり回帰性が保たれず、頭皮温度は30〜34℃と低下していきます。

 頭皮は、被服で覆われることなく常に露出している為、常に外気温度に影響され、毛量が多く、保温効果が充分なうちはまだしも、薄毛→禿となると更に頭皮温度が低下します。頭皮温度が低下する事により、毛乳頭における組織細胞の代謝を促す「酵素」が活性を失い、代謝老廃物、二酸化炭素、不用毒素が蓄積され、毛細血管内の血液はドロドロに汚れ、汚血という状態になります。

毛乳頭に蓄積する廃棄物を一刻も早く静脈に排泄しようとする恒常性維持機能が「動静脈吻合」を形成し、血液は毛細血管を巡回し、(1の6図)に示すようにバイパスを通じて流れるようになります。
 この結果、毛母細胞は充分に栄養と酸素と水の補給が行なわれず、弱々しい毛髪、薄毛を生成し、更にこの状態が長期間続くと、毛髪サイクルを早め、短毛、ぜい毛に退化していき、最悪の場合は毛穴も退化する萎縮性脱毛になります。


(7)自然治癒力は心によって左右される

@心とは
 発毛や育毛の本を見ると、毛髪を草花、頭皮を土壌、育毛剤を肥料に例え、解説している事があります。実はこの表現が発毛、育毛にとっては非常に危険な発想で、これだけを鵜呑みにすると、とんでもない結果になります。それは「人間には高次な心があるのに対して植物には心が無い」という紛れもない事実です。
 人間を始め、動物も植物も生きるという事に関しては、その形態は違うものの、それぞれの細胞の生命を維持している事には変わりありません。同じ生命を維持するにも、植物は自然の環境に従って生きるか、人為的な環境に従って生きているだけで、自らの創意や工夫はなく、環境に合わなければ枯れて、生命を失います。
 動物には生きていく工夫や、それに伴う知恵を持ち、欲求の表現、例えば食べ物を欲しがるときは、泣いたり吠えたりして意志を表現し、又、自ら探すこともできます。ペットとして飼い慣らされている動物は、飼い主や可愛がってくれそうな人には尾を振ったり、なめ回したり、猫撫で声を出して甘える事を知っています。このような心の表現は植物にはなく、行動すらもできないのです。

 誰もが言葉の上では知りながらも見た人がいない、この得体の知れない不思議な「心」とは一体、何なのでしょうか。
 「広辞苑」によれば、「心」とは「人間の精神作用の元となるもの。また、その作用」、更に「知識、感情、意志の総体」とされています。
 では、「精神」とは何かという疑問に駆られ、再び「広辞苑」を紐解いて見ると、「物質、肉体的に対して心。たましい。」更に「知性的、理性的な、能動的。目的意識的な心の動き。根気、気力。」と著されています。
 「心」も「神経の駆動」も脳の中枢によって起こるものですが、「脳と神経」は本来、一体のもので解剖学上では「脳」は神経系に属し、その構造はかなり以前から解明され、我々理・美容師も既に学習し、理解しています。
 しかし、「心」と「脳」の働きについては、かつては西洋医学の高度な英知を持ってさえも解明する事ができない「ブラックボックス」とされ、神秘の世界とされていたのですが、近年になって脳内ホルモンの分子レベルでの研究が進み、やっとその「ブラックボックス」に光がそそぎ込まれるようになったというような現状なのです。


A心と脳・神経の関わり
 人間は、まず生きていこうとする基本的な「意欲」、次に生きていく上において起こる様々な事に対する「情感」、そして人間にしかない高次な「英知」、更に高次な英知によって生まれる「創造」「品性」「理性」という脳の働きによって心の豊かさ、人間が人間らしく生きる心が作られます。

 この「意欲」「情感」「英知」の脳の働きをどのように使うかによって、その人の「心の在り方」「思考の違い」があるのです。例えば、何の感情も持たず、欲望のおもむくまま生きる人、感情は持っていても全てが自己中心に生きる人、自分は生かされているという自覚を持って生きる人と様々ですが、これらは三つの脳の働き、つまり「視床下部」「大脳辺縁系」「大脳新皮質」そして「前頭連合野」の統率によって生まれるのです。(1の7 図)
 「視床下部」は脳の中心に位置する間脳の一部で、視床の前下方にあることから、その名称が付けられたとされる大豆粒ほどの小さな脳で、その下方に突き出た脳下垂体と連なり、自律神経を中枢して生命維持に関する自律的な機能、つまり恒常性維持機能を司り、「生命の脳」とも言われています。
 「大脳辺縁系」は、大脳半球の内側にある間脳、大脳を囲む辺縁系と記憶や学習を司る海馬体、本能的な攻撃性や認知力を司る扁桃体、前頭連合野と他の脳の間に行なわれる情報交換の仲介役を司る側座核などを含めて大脳辺縁系といいます。
 大脳には皮質という組織があり、人類の進化の過程で古くから発達したとされる古皮質と、それよりやや新しい中間皮質からなり、視床下部との協調により、本能や情感、つまり食欲や性欲、体温の調節や心拍の調整、物質の代謝、毛髪の生成などに関わる自律的な生命活動、そして快、不快、恐れ、怒りなどの情感、情動に関わり、別名「情感の脳」あるいは「内臓の脳」「動物の脳」とも言われています。
 「大脳新皮質」は古皮質、中間皮質に対しての大脳皮質の別称で、前頭連合野との協調によって「英知」「品性」「理性」「創造」などを司り、「道徳心」や「道義心」という人間だから持てる高次な「心」を育て、養う脳で、別名「英知の脳」とも言われています。
 「前頭連合野」は大脳皮質の中心溝と外側溝に囲まれた前方部にあって、大脳古皮質、中間皮質、大脳新皮質、視床、視床下部、小脳、間脳などの間を無髄神経で結び、情報交換を行ない、その統率をとり、複雑かつ高次な意志、思考、創造性を持つ心を養う組織で、特に大脳新皮質との協調によって「道徳心」「道義心」「論理的な思想」など、品性のある高次な心が生まれます。


B毛髪の生成は意志に左右されずとも情感に左右される
例えば、何かを取ろうと思えば手が動き、その物に手を掛けます。又、頭が痒いと感じれば何の躊躇もなく手が動き、頭皮を掻きます。このような行動は、感覚器から得た情報を知覚神経を通じ大脳へ伝え、大脳は意志の表現として運動神経を通じ、行動を起こさせた結果です。このようなネットワークは大脳と体性神経系の働きによる機能ですが、体の機能の中には自らの意志とは関係なく働いているものがあります。
例えば、「今、毛髪の原料となる食材を胃に送りました。あと数時間後には栄養となって毛乳頭に届くはずですから、毛母細胞に供給して下さい」というような意志を持たなくとも、栄養は毛母細胞に供給され、細胞分裂を続け毛髪は生成されます。これは、植物性神経系と生きる意欲の脳による自律的な機能です。

植物性神経系とは、末梢神経のひとつである自律神経系の別名で、恒常性維持機能と深い関わりを持ち、内臓や血管、脳など意志の自由にならない組織、器官に広く分布し、特に毛髪の生成に直接かかわりの深い毛乳頭、毛細血管、皮脂腺、汗腺、起毛筋などにも分布し、毛髪の生成を自律的な機能を持ってコントロールしています。
その機能を中枢するのは生きる意欲の脳、つまり視床下部を主として大脳辺縁系にあります。従って植物的な脳の視床下部に情感の脳の大脳辺縁系の指令が加わり、自律神経系が機能しますから、「毛髪の生成は意志に左右されずとも、情感には左右される」のです。


(8)回帰本能を癒す

 「本能」とは、動物や人間が生まれつき持っている性質や能力を言いますが、食欲や性欲、心臓の心拍など視床下部の司る生理機能は、人間の本能によって機能しています。
 人間は進化の過程で多くの事を学び、発展させ、現在があるわけですが、人間本来の生理機能は進歩に合わせて進化してゆくのかと思えば、決してそのような事ばかりではなく、むしろ生理機能は退化し、人間本来の生命環境に戻りたがっているのです。これが回帰本能で、特に昭和40年を過ぎた頃から、人間の生活は本来の本能から急速にかけ離れ、その為に若禿や成人病が急増し始めたのです。
 毛髪の生成、成長は基本的に本能による視床下部の指令によって、その恒常性が保たれます。毛髪の健康は、いかに本能的なライフサイクルに近づけるかが重要なポイントになります。

 母胎は、胎児の生命を育んでくれた安らぎの腑で、誕生する前の生命は母親の生命力と恒常性維持機能によって支えられ、本能も母親の本能に影響を受けながら育まれ、三歳位までにほぼ備わります。
 赤ちゃんを入浴させると、気持ち良さそうに眠り始め、放尿はおろか、時には脱糞さえすることがあります。湯温で体内が温まってきて、赤ちゃんが胎内にいた時のぬくもりと安堵感を母胎回帰本能が感知し、セロトニンの放出が始まった事を示すものです。セロトニンの放出で副交感神経が活発になり、眠りを誘い、胃腸や泌尿器系が活動した結果起きた現象で、入浴が終わるとすぐにお乳を欲しがるのも同じ現象で起きているのです。
 母胎回帰本能は、乳児期だけのものではなく、大人になっても胎内の生命環境の心地良さは「母親の温もり」として残っています。
 脱毛症は、一歩間違えれば死をも選択する人さえいるという、深刻な悩みです。特に全頭脱毛、全身脱毛となると心の葛藤ばかりではなく、生理機能まで低下して、本人は窮地に追い込まれます。ましては、都会で一人住まいをしているような状況では、その窮地は極限に達します。
 このような人が、発毛ドックに入会すると「故郷に帰って、おふくろの温もりをじっくりと味わいながら養生しなさい」という提言をしますが、その効果は如実に現れます。
 このような症状の子供を持つお母さん達にお願いしたい事は、決して建前や世間でまかり通る虚構論に立ち子供に接しない事で、あくまで母親としての本音で物を言い、スキンシップを大切にして子供の持つ母胎回帰本能を癒してあげることです。
 それだけでも、子供の本能が癒されれば、体温は0.5〜1℃、頭皮温度は3〜5℃も上昇します。

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