第2章 毛髪はこのようにして生やされている

(1)毛髪と皮膚組織
 ともすれば、毛髪は「勝手に生え、勝手に成長している」と思われがちですが、皮膚組織の一器官として人間の中枢である脳を守り、人体の生理機能及び心と脳・神経の恒常性を保ち、且つ頭皮組織を守りながら自己の生命活動を行なっています。
 一方、体内では毛髪の生命を支える為に血液を作り、酸素を吸収し、水と栄養を取り入れ、これ等を供給する為には、多くの臓器と組織が活動し、頭皮においても皮膚組織、毛脂腺器官が毛髪と密着し、それぞれの役割を果たしながら、その生命を支えています。
 毛髪は、発生学的から見れば、皮膚の変化したものとされ、従って毛髪の生成と他の組織との相関を知るには、皮膚組織を理解する事が前提となります。
 
@皮膚組織

(2の1図)に示すように、頭皮の組織は毛組織、表皮、真皮、皮下組織、血管、リンパ、神経、汗腺、皮脂腺、毛穴などからなり、毛髪の生成と成長はこれらの正常な生理機能によって支えられています。
 1.表皮
表皮は外側から順に角質層、顆粒層、有棘層、基底層からなり、平均0.2mm程の厚みがあるとされています。
最下部にある基底層には未分化な細胞、ケラチノサイトが毛細血管から酸素、水、アミノ酸等の栄養を受け取り、酵素の働きによって分裂増殖をし、繊維性の硬質なタンパク質ケラチンを生成します。
更に基底層には、色素細胞が 分裂増殖した細胞にメラニン顆粒を分泌して、皮膚の色付けをします。
このようにして生成されたケラチンは、次々と上層に押し上げられながら、有棘層、顆粒層を形成し、この間に徐々に水分を失ってゆき、角質層を形成しますが、角質層における水分の含有率は約30%とされ、アミノ酸、核酸、乳酸等からなる天然の保湿因子N,M,F(Natural Moisturizing Factor)と皮脂腺より分泌される皮表脂質によって、頭皮の柔軟性保湿機構が保たれます。
角質層は最後にはアカとなって剥がれ落ちますが、ケラチンが生成されてアカとなって剥がれ落ちるまでの新陳代謝の課程には一定のリズムがあり、その周期は28日間とされています。
角質層は外部からの異物の侵入を阻止し、刺激や衝撃を緩衝し、毛髪や表皮の下側に ある真皮層や組織、更に体内も保護する働きがあります。
特に、角質層と顆粒層の一部かかる範囲には、オイルゾーンと呼ばれる油膜層があり、パーマ液やヘアダイ液、その他親水性の化学薬品や化学合成化粧品、化学物質の皮下ヘの浸透を妨げ、生体を保護しようとします。
この為に水溶性の育毛剤や化粧品等の吸収率が低下することから、発毛や育毛に携わる者にとっては、オイルゾーンの存在は非常に不利な要因となる場合があります。

2.真皮
真皮層には、無数の血管や毛細血管、リンパ、神経などが分布し、組織液の確保、免疫機構の保持をし、毛組織や毛脂腺器官の生理機能を維持しています。
真皮層は、表皮基底層の下部に位置し、表皮との境目には乳頭と呼ばれる突出部を作り、表皮と交わり、その下には網状層があります。網状層はフィブロブラストと呼ばれる繊維芽細胞が、毛細血管から酸素、水、アミノ酸等の栄養を受け取り、酵素の働きにより分裂増殖して生成されるコラーゲン(膠原繊維)とエラスチン(弾性繊維)が網目のように絡み合い、その隙間を間充物質で満たしています。
間充物質は、繊維の生成物質となるリン脂質等の疎水性分とヒアルロン酸等からなる高分子親水成分がゲル状に存在し、頭皮の弾力性、柔軟性、保湿機構を保持します。
真皮層は硬い頭蓋骨と表皮の間にクッションとして存在し、血液やリンパ、組織液の流動性を保持すると共に、外部からの衝撃や摩擦、頭皮の緊張を軽減する機能があります。
「鉄板のように硬い頭皮」と例えられる硬化した頭皮は、
  ○石油シャンプーと俗称される化学合成原料を成分とするシャンプー剤や育毛剤等の
 使用による蛋白組成の溶解、凝固、破壊、組成の破壊
○ 電磁波(紫外線など)による、コラーゲン、エラスチンの繊維質の破壊
○ 不規則な生活、自己管理の怠慢等による、ストレス抑制ホルモンコルチゾール、エストロゲン、セロトニンの分泌の減少
○ 老化による基質の減少
等に起因しますが、頭皮が薄くなる現象も同じ要因から発生します。
このようなマイナス要因が続くと、真皮層機能の恒常性が低下し、頭皮は柔軟性、保湿機能を失い、血流障害を起こし、結果的には栄養障害として頭皮温度を低下させます。
頭皮温度が低下すれば、酵素の働きが低下し、毛母細胞における受容体の機能が低下し、分裂増殖がスムーズに行なわれなくなり、脱毛、薄毛、毛周期の短縮を起こしながら退化して行きます。

3.皮下組織
真皮層の下にあり、皮膚の最下層にあたる組織で、大部分が皮下脂肪で占められ、保温、エネルギー源の備蓄の役割を持っていますが、表皮、真皮との相関作用によりクッションとしての役割も果たしています。

4.毛脂線器官
汗腺、毛穴、皮脂腺は特に、毛脂腺器官とも呼ばれ、排泄と分泌を主な作用として、毛髪が正常に生育する機能を保護し、維持していますが、その主な働きは汗腺と皮脂腺にあります。
汗腺は汗を出す器官で、「気孔」とも呼ばれ、汗を出すことにより体温の調節を計り、且つ体内の老廃物、体内残留毒素を排泄し、自己浄化作用を維持します。
皮脂腺は表皮から約1.3〜1.6mm程の深さにあり、シーバムと呼ばれる弱酸性の脂腺性物質(皮脂)を生成し、毛穴の内側に開口する毛漏斗から分泌されます。
分泌された皮脂は、毛穴の開口部から滲み出て、疎水性の皮脂膜を形成し、皮膚や毛髪を保護しますが、その機構は次のように果されています。
◎ 外気温の影響で頭皮の温度が低下するのを防止し、毛髪の生成を正常に保つ(保温作用)
◎ 外部からの衝撃や摩擦を軽減し、毛髪や皮膚の損傷を防止する(緩衝作用)
◎ 弱酸性の皮脂が雑菌の繁殖を妨げ、毛穴への侵入を阻止する(防菌作用)
◎ 親水性の化学薬品や化学合成化粧品類の有害物質が皮膚へ浸透するのを阻止し、これらの刺激を緩和する(防御作用)
◎ 頭皮や毛髪から必要以上に水分が蒸発するのを防止し、艶と潤いのある毛髪を保ち、頭皮の乾燥を防ぐ(保湿作用)

 5.毛包
毛包は従来、「毛襄」と呼ばれ、毛穴の開口部にある角質層との臨界部から毛球まで毛髪を包み、毛球部に至っては内毛根鞘と外毛根鞘、更に結合組織鞘という三重の鞘に納まっています。
毛包は真皮と毛髪の異なる組織の隙間を埋め、毛髪の生成を補助し、毛髪の固着力と復元力を維持し、外部からのあらゆる刺激によって相互の組織が干渉したり、破壊したりするのを防止する保護組織です。
ここで改めて、毛包の保護機能を挙げます。
○ 毛髪の固着力と復元力を維持し、毛髪の損傷を防止する(緩衝作用)
○ 雑菌類が毛穴の開口部や毛髪から侵入するのを阻止する(防菌機能)
○ 化学薬品や化学合成化粧品類に含まれる有害物質が毛穴の開口部から直接侵入するのを阻止する(防御作用)
○ 外気温が毛髪を伝導し、頭皮組織の温度が変化するのを防止する(保温作用)
○ 毛髪の受ける衝撃を緩和し、真皮や毛乳頭機能に干渉するのを防止したり、破壊するのを阻止する(緩衝作用)


(2)毛髪の生成
 一般に毛根と呼ばれている毛球は、表皮から1.6〜1.9mm程の深さにあり、毛球は表皮の性質を帯びた内毛根鞘と、真皮の性質を帯びた外毛根鞘、及び結合組織鞘からなる毛包と、真皮細胞層からなる結合組織(毛乳頭)からなり、これらの相互作用により毛髪は生成されます。
 毛包基部は毛母と呼ばれ、不規則な配列をした未分化な有糸分裂細胞群からなる毛母細胞とメラノキサイト、色素形成細胞等からなる色素細胞があり、毛母の下方には凹洞があり、そのなかに基底膜を境にして毛乳頭が入り込んでいます。
 毛乳頭は、毛乳頭細胞、大食細胞等の細胞群と毛細血管、リンパ、細胞間基質、自律神経等により組成される結合組織で、体内から酸素、水、アミノ酸等の栄養、即ち毛髪生成物質を受け取り、毛母細胞や色素細胞に渡す、仲介の役目をしています。

 毛乳頭の毛細血管から毛髪生成物質と遺伝子の情報を受け取った毛母細胞はその情報に従い、酵素の助けを借りて、旺盛な分裂増殖を繰り返し、毛組織を作り出して行きます。毛髪となって形成される各部分の構造は、毛包基部にある毛母細胞の位置によって決まり、各々が特徴を持つ細胞からなり、分裂増殖を行ないます。(2の2図)

 毛皮質となる細胞は縦に細長く並び、魚の鱗の様に重なってゆき、毛皮質となる細胞は、細胞内でケラチン繊維を合成して縦長の細胞を形成し、相互間を側鎖によって結合し、毛髄質となる細胞は蜂の巣のように縦長に並び、空気を含んでいます。
 又、毛母には色素細胞が点在し、分裂増殖した毛母細胞にメラニン顆粒を分泌して毛髪の色付けをします。
 こうして、徐々に細胞の配列を整えながら、内毛根鞘、外毛根鞘、結合組織鞘、毛髄質、毛皮質、毛表皮を形成し、毛穴の開口部に向けて押し上げられて行きますが、この時点では軟らかい毛組織に過ぎません。
 内毛根鞘と外毛根鞘、及び結合組織鞘に支えられながら更に押し上げられると、そこには角化移行部があり、角質細胞の働きによって毛母細胞は水分を失い、ここで始めて毛髪本来の硬い毛質になり、開口部から皮膚の表面に出てくるのですが、毛母細胞が生きていると言えるのは角化移行部までで、それ以降は死んだ細胞とされています。
 
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